強烈な色彩で美術界に革命をもたらした画家がいます。
アンリ・マティス。
今年4月から8月まで東京都美術館で開催された、20年ぶりの回顧展には、連日多くのひとが訪れ、マティス人気が不動のものであることが改めて証明されました。
20世紀を代表するフランスの巨匠、マティスの特徴は、なんといっても、豊かで常識を打ち破る色彩です。
「形のピカソ、色のマティス」と称されるように、形を壊し、平面に立体を焼き付けたパブロ・ピカソに対し、マティスは、色で世界を驚かせました。
黒い輪郭線の人物や家具、金魚たち、そして、赤や青、黄色の原色が画面にあふれます。
彼の色彩美は、晩年の色紙を切って貼る、切り紙絵に結実。
こちらは、来年2月から5月まで国立新美術館で開催される「マティス 自由なフォルム」という展覧会で本格的に紹介されます。
ポップでモダンなアート作品は、現代作家にも多大な影響を与え、お店や自宅のインテリアに彼の作品のレプリカを飾るひとは絶えません。
なぜ、彼は色彩に目覚め、その才能を開花することができたのでしょうか。
マティスが生まれたのは、フランス北部のひなびた村でした。
他国との国境が近く、絶えず、侵略や戦争の脅威にさらされ、第一次世界大戦のときは、激しい銃撃戦が勃発。
村人たちは、「死」の恐怖に怯えました。
マティスの幼少期の記憶は、暗く灰色の空とレンガ色に統一された家や工場群。
そこに、色はありません。
穀物や種を扱う商いをしていた父は、子どもたちを働かせ、いつも怒鳴り散らしていました。
「早く、ここから抜け出したい。
光や色で満ち溢れた世界がどこかにあるはずだ」
それが、幼い頃の願いでした。
しかし、高速道路までおよそ80キロ。
鉄道はありませんでした。
どこにも行けない閉塞感を抱えたまま、20歳まで、ふるさとで過ごしたのです。
だからこそ、旅の行商人が都会から持ってきた、色鮮やかな織物を見たときのときめきは、生涯、彼の心に残り続けました。
彼はこんな言葉を残しています。
「見たいと願うひとたちのために、花はいつも、そこにあります」
色彩の魔術師、アンリ・マティスが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?