青森県出身の、20世紀の日本を代表する板画家がいます。
棟方志功(むなかた・しこう)。
今年、生誕120年を迎える彼の展覧会が、現在、東京国立近代美術館で開催されています。
『棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ』。
この展覧会の特徴のひとつは、青森、東京、富山と、棟方が暮らした三つの土地をたどる、初の大回顧展であるということです。
ヴェネチア・ビエンナーレでの受賞を始め、版画絵の世界に革命を起こした彼は、「世界のムナカタ」として国際的に多大なる評価を得ました。
その創作の秘密を、彼が暮らした三つの場所からひもとく試みは、必見です。
特に注目は、久しぶりの公開となる、棟方が疎開した富山県福光町の光徳寺から依頼を受けて画いた『華厳松』。
墨がはじけ飛ぶダイナミックな筆致が堪能できます。
今もなお、世界中のファンを魅了してやまない棟方ですが、その人生は、苦難の連続でした。
そのひとつに、視力があります。
幼い頃から、右目がよく見えない。
歳とともに視力は低下し、やがて、右目は全く見えず、左目も半分は闇の中だったのです。
木版に顔をくっつけるようにして対峙する姿は、彼にとって、止むに止まれぬもの。
ただ、棟方は、日本図書センターが発刊した『人間の記録』でこう語っています。
「ただまことにおかしなもので、わたくしの右眼は、板画の刃物を持つと見えてきます」
彼は、うまくいかないこと、不器用にしか生きられない哀しみを大切にしました。
あるインタビューで、こう答えています。
「哀しむことを裏に持っていて、驚くことと喜ぶこと。
哀しみは、人間の感動の中で、いちばん大切なのであります」
絶えず笑顔でひとに接し、生きることの素晴らしさを説いた賢人、棟方志功が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?