アメリカン・リアリズムに革命をもたらした画家がいます。
アンドリュー・ワイエス。
ワイエスの作品は、自身が生活した半径100メートル以内の日常に根差しています。
人種差別が激しかった時代にも関わらず、黒人と交流を持ち、彼らをモチーフに描きました。
画かれる題材には、ある意味、ドラマティックな華やかさはありませんが、彼は国民芸術勲章や大統領自由勲章を授与されるまでになったのです。
彼の幼少期は、孤独そのものでした。
虚弱体質、神経衰弱。
学校に通うことができず、家庭教師と父親だけが先生でした。
しかも、優秀な姉に対するコンプレックスは計り知れず、常に「ボクなんかが生きている意味あるのかな」という思いでいっぱいだったのです。
ただ彼は、絵を画くことだけは大好きで、その「好き」を生涯手放しませんでした。
ワイエスの代表作『クリスティーナの世界』。
メイン州の沿岸地域の小高い丘に、ひとりの女性が寝そべりながら、遠くの家を目指しています。
この桃色のワンピースを着た女性は、ワイエスの隣人、アンナ・クリスティーナ・オルソン。
彼女は、病気の後遺症で筋肉が衰えていく障害を持っていましたが、車いすを拒否。
両腕を使い、匍匐前進して移動しました。
その姿は、ある人から見れば滑稽に映り、子どもたちは彼女を真似して笑いました。
でも、ワイエスは、彼女の前に進む姿を見て、涙を流します。
「クリスティーナは、体は不自由かもしれないが、心は誰より自由だ。私もそうありたい」
クリスティーナも、唯一、ワイエスにだけは心を許したと言います。
「あなたには、嘘がありません。私はこういう境遇なので、ひといちばい、ひとの嘘には敏感なのです」
ワイエスは、知っていました。
幸せは、どこか遠い国にあるのではない。
自分の心の中にある。
20世紀を代表する、奇跡の画家。アンドリュー・ワイエスが人生でつかんだ、明日へのyes!とは?