坂本九が歌い、一世を風靡した名曲『上を向いて歩こう』を作詞したレジェンドがいます。
永六輔(えい・ろくすけ)。
『上を向いて歩こう』は、1961年、NHKの音楽バラエティ番組『夢であいましょう』の今月の歌で初披露するや、またたく間に大ヒット。
3か月連続ヒットチャート1位を記録。
さらに『SUKIYAKI(スキヤキ)』とタイトルを変え、アメリカ、ビルボードのヒットチャートで3週連続1位の快挙に輝きました。
時は安保闘争真っただ中。
永は、放送作家の激務の合間をかいくぐって、デモに参加します。
あまりに熱心にデモに参加するので、テレビ局のディレクターから、「キミは、仕事とデモ、どっちが大事なんだ?」と責められます。
永は、「デモです」と即答。
そのまま番組を降りたという逸話が残されています。
終戦後、目覚ましい復興を遂げた日本でしたが、再び、戦争の影が忍び寄っているのではないか、永は、繊細な感性で怖れを感じたのです。
終生、反戦、反権力を訴えた彼は、「本当に戦争に関わるのはよそう。戦争を手伝うのもよそう。どっかの戦争を支持するのもよそう。それだけを言い続けていきたい」と話しました。
『上を向いて歩こう』の歌詞には、彼の二つの強い思いが込められているように感じられます。
ひとつは、安保闘争に敗れた悔しさ、怒り、それでも生きていこうとする決意。
もうひとつは、戦時中の幼少期、疎開先の長野県で感じた思いです。
親元を離れ、ひとりで通学する夜道。
ひとりぼっちが身に沁みます。
さびしい、つらい。
こらえても、後から後から涙がこぼれてくる。
涙を止めることができないのなら、せめて、上を向いて歩こう。
それはどこか、永の人生観にも通じます。
彼の優しさは、涙を流すなとは言いません。
人生は理不尽で、思うようにならない苦難の連続。
唯一、それに打ち勝つには、歩くのをやめないこと。
涙がこぼれないように、上を向いて。
軽妙な語り口と鋭い視点で多くのひとを魅了した、唯一無二の賢人、永六輔が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?