京都大学の名物教授で、数多くのエッセイを書いた文筆家としても有名な、数学者がいます。
森毅(もり・つよし)。
東京大学数学科を卒業後、北海道大学の助手になり、29歳で京都大学で教鞭をとってから34年間、独特の語り口やユーモアあふれる授業で人気を博しました。
63歳で大学を退官後、多くの大学からオファーを受けましたが、全て断り、フリーランスとしてエッセイや評論を書き、積極的にマスコミにも顔を出し、数学の楽しさ、人生のよりよき生き方を指南。
多くのファンに愛されました。
森が提唱したものに、『人生20年説』というのがあります。
まずは過去の遺産で生きるのはやめよう、20年前の自分は、赤の他人。
そう考えれば、人生が80年とすれば、ひとは、4回生まれ変わることができる。
これは楽しい。ワクワクする。
第一の人生でつまずいても、大丈夫。
次の20年をまっさらな気持ちで生きればいい。
60歳を迎えたとき、森が下したのは、大学を去り、自由な大海原に漕ぎ出そう、という決断でした。
そしてそれを支えているのは、あえて孤独を恐れない、ということ。
京都の東山三条に、古い宿屋がありました。
そこには、年老いた犬が一頭いました。
犬は、いつもひとりで悠々と道を渡ります。
旧国道一号線。
どんなにクルマが通っても、急がず、動じず、堂々と渡ります。
その様子を見た森は、これだと思ったのです。
「みんなで渡れば怖くない」ではなく、「ひとりで渡れば危なくない」じゃないか、と。
たったひとりの、犬。
彼を見たドライバーは、クルマを停め、微笑んで彼が道を渡るのを見届けます。
これがもし、何匹もの犬が、おどおど、ビクビクして渡っていたら…。
ドライバーは、つい、クラクションを鳴らしてしまうかもしれません。
ひとりだから、認められる。ひとりだから、カッコいい。
おのれの生き方でよりよい人生を指南した賢人、森毅が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?